Delphiは、統合開発環境(IDE)の一種です。使い勝手のよい開発ツールのため、Delphiを使ってみたい方も多いのではないでしょうか。本記事では、Delphiの概要や勉強方法を解説します。
プログラミング開発ツールの一種であるDelphiは、「統合開発環境(IDE)」と呼ばれているツールです。さまざまなツールが集約されており、使い勝手のよさからDelphiを使ってみたい方も多いのではないでしょうか。本記事では、Delphiがどのようなツールなのかを知りたい方へ向けて、Delphiの概要や開発できるもの、学習方法などについて解説します。
目次
Delphiとは?

「Delphi」は、1995年にリリースされた「統合開発環境(IDE)」です。
デスクトップアプリケーションの開発を得意としており、Windowsのみで動きます。しかし、Windows向けのアプリケーションだけでなく、AndroidやmacOS向けアプリケーションの開発も可能です。
オブジェクト指向の要素があり、効率よくプログラムを開発できる点も大きな特徴です。
統合開発環境とは何?
統合開発環境とは、コンパイルやデバッグなど、ソフトウェア開発に必要なツールが集約された開発環境です。IDE(Integrated Development Environment)と表記されることもあります。
統合開発環境が登場するまでは、コンパイルやデバッグ用のツールを個別に入手し操作する必要がありました。しかし統合開発環境の登場によって、コンパイルやデバッグツールを集約することで開発スピードが飛躍的に向上したのです。
複数のツールを併用せずひとつの画面で開発ができるので、多くの企業などが統合開発環境を導入しています。
Delphiで開発できるもの
「Delphi」は、ひとつのソースコードを使って複数のプラットフォームアプリケーションを開発できます。
この特徴は「単一コードベース」とも呼ばれ、WindowsだけでなくmacOS・Android・iOS・Linuxといった、さまざまなOS向けのアプリケーションの開発が可能です。
それぞれ詳しく解説します。
Windows向けアプリケーション開発
「Delphi」は今でこそさまざまなOSに対応したアプリケーションを開発できますが、もともとはWindows向けのビジュアル開発ツールでした。そのため、Windows向けのアプリケーション開発をおこないやすい仕様になっています。
Windows向けのアプリケーション開発に適している仕組みのひとつが「VCL」です。VCLは「Visual Component Library」の略で、Windows向けアプリケーションを開発する際のビジュアルコンポーネントをまとめたものです。VCLを活用することで、迅速なアプリケーション開発ができます。
マルチプラットフォームのシステム開発
「Delphi」の特徴のひとつに、「マルチプラットフォーム」があります。
マルチプラットフォームは「クロスプラットフォーム」とも呼ばれることがあり、複数のOSに対応したプロジェクトを一度に完結できるものです。OSごとに開発チームを分散させたくない場合や、複数のOSに対応したアプリケーションを開発する際に向いています。
Delphiのメリットとは?

次に、「Delphi」のメリットを見ていきます。統合開発環境にはさまざまな種類があるため、メリットを知ることで「Delphi」を導入すべきかの判断がしやすくなります。
「Delphi」の主なメリットは以下の通りです。
- コンポーネントで効率よく開発ができて自由度が高い
- ビルドが早く終わる
- オブジェクト指向の言語が使われている
それぞれ詳しく解説します。
コンポーネントで効率よく開発ができて自由度が高い
「Delphi」は「コンポーネント」を使って開発でき、既存のコンポーネントや新たなコンポーネントを作成・拡張することも可能です。コンポーネントとは、特定の機能を備えた部品のようなものです。「Delphi」においては、プログラミングに利用できる「ビジュアルなオブジェクト」のことを指します。
このコンポーネントを使うことで、アプリケーションのデザインを画面上で確認しながら作業が進められます。また、コンポーネントは拡張できるため、自由度の高さも大きな特徴です。効率的な開発と自由度の高さを兼ね備えている点が「Delphi」の魅力といえるでしょう。
ビルドが早く終わる
「ビルド」の早さも「Delphi」のメリットのひとつです。「ビルド」とは、ソースコードを解析してエラーがなかった場合にオブジェクトコードに変換する「コンパイル」と、実行可能ファイルを作成する「リンク」までの一連の流れを指します。
一般的に「ビルド」は処理に時間のかかるプロセスですが、「Delphi」は「Delphi言語」の厳密性の高さから「ビルド」が高速です。過去のコンパイル情報を反映した上で、コンパイルをおこなってくれる点も「ビルド」が速い要因となります。
「ビルド」の早さはデバッグのしやすさにもつながるため、プログラミングにおいて大きなメリットといえるでしょう。
オブジェクト指向の言語が使われている
「Delphi」はオブジェクト指向を取り入れた「Delphi言語」を使用しているため、大規模プロジェクトに向いています。
オブジェクト指向とは、データや処理などをひとつのオブジェクトとして捉え、オブジェクトを組み合わせてシステムを構築していく考え方です。オブジェクト指向の考え方に基づいて開発された言語は、プログラミングの書き換えがしやすく認識を共有しやすいなどの特徴があります。
これらの特徴は、大人数が作業に関わる大規模プロジェクトで重要なポイントです。
Delphiのデメリットとは?

「Delphi」には、メリットだけでなくデメリットも存在します。
「Delphi」の主なデメリットは以下の2つです。
- ツール自体の知名度がそこまで高くない
- 開発環境はWindowsに限定される
それぞれ詳しく解説します。
ツール自体の知名度がそこまで高くない
数ある統合開発環境の中でも「Delphi」は、「Visual Studio」や「Eclipse」と比較すると知名度はあまり高くありません。そのため、「Delphi」を使用している企業や開発者は少数といえます。他のメジャーな統合開発環境と比較すると、案件も獲得しづらいのが現状です。
また、「Delphi」自体は習得しやすいものの、参考となる書籍が少ないため、書籍のみの勉強だけでは、案件が獲得できるような実務レベルの「Delphi」のスキルを習得するのは難しいでしょう。「Delphi」はあくまでも選択肢のひとつとして留めておき、他のメジャーな言語と併用しての学習をおすすめします。
開発環境はWindowsに限定される
「Delphi」はWindows用のツールなので、開発環境がWindowsに限定されてしまいます。他のOSで主に開発をおこなっている方にとっては、無視できないデメリットです。
ただしmacOSやLinuxの場合は、仮想マシンを用いることで「Delphi」での開発が可能となります。
Delphiの無料版と有料版の違いとは?

「Delphi」には、無料版と有料版の2つのバージョンがあります。ここからは、2つのバージョンにどのような違いがあるのか見ていきます。
無料版でできること

embarcadero Delphi Community Edition
無料版の「Delphi」である「Delphi Community Edition」は利用規約が定められており、誰でも無料版を使用できるわけではありません。
「Delphi」の開発元である「embarcadero」公式に記載された利用規約は以下です。
- Community Editionは、個人またはスタートアップ企業の方が利用できる製品です。
- Community Editionを利用している企業の年間売上が5,000USドル以上に達した時点で、Professional以上の有償エディションを購入いただく必要があります(個人で利用している方の場合、作成したアプリケーションやコンポーネントの年間売上が5,000 USドル以上に達した時点)。
引用:Delphi Community Edition – エンバカデロ・テクノロジーズ
一部の機能に制限がかかっているものの、有料版の基本となるProfessional Editionとほとんど変わりありません。機能面は無料版でも十分実用レベルのため、個人での開発や小規模での開発に適しています。
有料版でできること

「Delphi」の有料版には、以下の3つのエディションがあります。
- Professional Edition
- Enterprise Edition
- Architect Edition
Professional Editionが、有料版の基本です。Enterprise EditionではProfessional Editionに加えて、「FireDACによるリモートデータベース/エンタープライズデータへのアクセス」や、「Linuxクライアント/サーバーアプリケーションの構築」が可能です。
Architect Editionはさらに、「データベース開発と管理」「Ext JS Web開発フレームワーク」が解禁され、すべての機能が使用できます。30日間の無料トライアルがあるため、有料版を検討している方はトライアルで各エディションの機能を確認し、自分に合ったエディションを選択してください。
Delphiの使い方を解説!

ここからは、「Delphi」の使い方を解説します。
「Delphi」は統合開発環境のため、複雑で難しいツールだと思っている方もいるかもしれませんが、それほど難しくありません。
以下の流れに沿って、「Delphi」を導入・使用してみましょう。
- ダウンロード後に起動しよう
- コンポーネントでアプリケーションのデザインを作成する
ダウンロード後に起動しよう
「Delphi」は、開発元であるembarcaderoのホームページからダウンロードできます。ダウンロードには会員登録が必要なため、会員登録をしてからダウンロードをしてください。
ダウンロードした「Delphi」を起動すると「RAD studio」というアプリケーションが起動するため、「Delphi」の開発はすべて「RAD studio」上で進めていきます。

セットアップオプションが表示されるため、任意の選択肢を選び、インストールします。
Delphiを使ってみる
ではさっそく、インストールした「Delphi」を使用します。「Delphi」を使うには、専用のプログラミング言語であるObject Pascalを使用してください。もっとも簡単なコードの「Hello World」を「Delphi」で表示させる手順を解説します。
インストールした「Delphi」を起動すると、下図のような画面が表示されます。

画面上部のメニューから、「ファイル」→「新規作成」→「その他…」を選択してください。

続いて表示されたメニューの中から、「コンソールアプリケーション」を選択します。

下図のようなコードが表示されます。
実際のコードは、「ここにコードを記述してください」というメッセージが表示された箇所に記述してください。

「Hello World」を表示させる場合は、tryからexceptと書かれているコードの間に以下の記述をします。
WriteIn(‘Hello, World!’); ReadIn;

実行結果は以下のように、コンソールに表示されます。このプログラムが実行できただけで「Delphiを使いこなせる」わけではありませんが、プログラミングやツールの使い方を習得するための第一歩を踏み出すことはできました。
Delphiを学習する方法は?

「Delphi」を学習するには、「Delphi」言語を習得する必要があります。しかし「Delphi」は知名度があまり高くないため、学習の場が限られています。
メジャーな言語やツールと比較するとやや学習のハードルは高いですが、以下の学習方法を参考にしてみてください。
- Pascal言語を先に勉強する
- 他のオブジェクト系言語も学ぶ
Pascal言語を先に勉強する
「Delphi」言語は、オブジェクト指向のある「Pascal」言語が元となっています。「Pascal」言語は「Delphi」言語ほどマイナーではないため、プログラミングスクールや学習サイトなどでの学習が可能です。
「Pascal」言語の理解は「Delphi」言語にも活かせるため、まずは「Pascal」言語を学んでから「Delphi」言語へ移行すると理解しやすくなります。
他のオブジェクト系言語も学ぶ
他のオブジェクト系言語を学習するのもおすすめです。オブジェクト指向という考え方は共通しているため、同じオブジェクト指向の「C#」や「C言語」を勉強すれば、「Delphi」言語も理解しやすくなります。
「Delphi」だけの案件は少ないため、「Delphi」言語だけではなく他の言語の習得もおすすめします。
Delphiを勉強する方法
Delphiを学習するためには、まずどのプログラミング言語を学ぶかを決めましょう。Pascal言語、C#、C++などの言語が選択肢になります。
次に独学で学ぶか、プログラミングスクールに通うかを選択します。英語が堪能な方には、Delphiの開発元である「embarcadero」が提供する動画素材の活用がおすすめです。

引用:Coding Boot Camp 2022 – Learn to Program
また、書籍で学ぶ方には、「Delphiでかんたん iOSアプリプログラミング」がおすすめです。

2013年発行と発行からやや時間が経過している書籍ですが、iPhoneやiPadのアプリを作成するというゴールをもってDelphiの学習を進めることができます。
さらに、大阪か東京で開催される株式会社ミガロのDelphi基礎講座の受講もおすすめです。不定期の開催ですが、2日間集中して学べるため、通う負担は少ないでしょう。Delphiの公式教材にも目を通すことをおすすめします。気になる方は以下のサイトをチェックしてみてください。
Delphi 開発入門コース – 開発の基本を実習と解説で理解 | ミガロ
Delphiは初心者でも学びやすい開発ツール

「Delphi」は、それほどメジャーな開発ツールではありません。しかし操作は難しくなく無料版やトライアルもあるため、プログラミング初心者にもおすすめの統合開発環境といえるでしょう。
IT業界を取り巻く環境は日々変化し続けているため、今後「Delphi」の需要が高まる可能性も考えられます。エンジニアとしてのスキルは多いに越したことはないため、「Delphi」に興味のある方はぜひ習得してみてください。